ハクシャクノテンシ(声劇用)
原作:武藤暁 参考:N-GRAVITY
●登場人物
ハクシャク(♂): テンシ(♀): N(不問):
●注意事項
同名の小説、Flash作品を声劇用に改編したものです。
この台本に関しては性別転換等々、好きなようにお使いください。
●本編
N「むかし、むかしのオハナシです。」
N「ハクシャクという吸血鬼がいました。ハクシャクは血を吸えないドラキュラでした」
ハク「だって鉄っぽい味がするし、ドロドロして気持ち悪いんだもん」
N「そのうえシュミはひなたぼっこで、十字架のアクセサリーが大好きでした」
ハク「だって太陽は気持ちが良いし、十字架もカッコイイから」
N「ハクシャクはドラキュラっぽくないので、ミンナからいじめられていました」
テンシ「今じゃない時、此処じゃない場所 雪は白くて、星はキラキラして、空気はおいしかった そんな世界のオハナシ」
ハク「今日も皆からいじめられた…。ボクはなんて情けないんだろう…。 あぁ…イヤになるなぁ…」
N「ハクシャクはため息をつきながらトボトボと歩き出しました」
ハク「自分を変えなきゃダメかなぁ……あ、バンドとか始めようかな?」
N「木の下で、ひとりのテンシが台に乗って、枝から垂れたロープで輪を作っている脇を肩を落としたまま通り過ぎ―――」
ハク「そういう問題じゃないか…」
テンシ「………」
ハク「……ん?」
N「ハクシャクが振り返ると、意を決したようにロープに手をかけたテンシがいました」
ハク「うわ!?なにやってんだ!!」
N「ハクシャクは慌ててテンシを突き飛ばしました」
ハク「キミいくつ?」
テンシ「2ひゃく6じゅう1さい」
N「日が暮れて、ハクシャクとテンシは、ラーメン屋の屋台に居ました」
ハク「まだ若いじゃないか、死ぬには早すぎるよ」
N「ハクシャクはぼんやりと、どんぶりを見つめながら、自分に言い聞かせるかのように、続けます」
ハク「神様が言ってた。自殺は一番しちゃダメなコトなんだ」
テンシ「だって、輪っかのついてないテンシなんてテンシじゃないもの」
N「テンシの耳元につけられたリングのピアスが寂しげに光りました」
ハク「ニンニクをたくさん入れた方がおいしいよ」
N「それから少し時間が経ち、ハクシャクはおもむろに口を開きました」
ハク「ボクはもっとヒドいさ。ドラキュラらしいところは、ひとつもない。 でも、キミにはテンシらしい白い羽根があるじゃないか」
N「テンシはハクシャクに恋をしました」
テンシ「きめた!アタシが必ずアナタをりっぱなドラキュラにしてあげる。 その時はアタシの血を吸って、アタシをドラキュラにしてちょうだい」
ハク「ダメだよ、天使は吸血鬼にはなれない。血を吸われたら死んじゃうかもしれないよ? …だから絶対にキミの血は吸わない」
テンシ「それでもいい…。テンシじゃなくなるなら、何でもいい」
N「その日から、テンシはハクシャクの屋敷に住みつきました」
テンシ「はい、どうぞ」
N「十字架のタトゥーを彫りこんだテンシが、ハクシャクに赤い液体の入ったコップを差し出します」
ハクシャク「…トマトジュース?」
テンシ「今日からこれ以外の物を口にしては駄目よ」
ハクシャク「(液体を飲み干して)うん、これはこれで健康的」
テンシ「まずはニンニクをキライになる特訓ね」
N「テンシはハクシャクに向かって、ありったけのニンニクをぶつけていきます」
ハク「イタイ、イタイ!」
テンシ「ニンニクの痛みを体で知れ!」
テンシ「次は太陽がキライになる特訓よ」
N「テンシは、虫眼鏡で太陽の光を集めてハクシャクの目に当てていきます」
ハク「アツッ!アツイ、アツイ!せめてミディアムレアで!ミディアムレアでお願いします」
テンシ「あなたは十字架がキライになる…」
N「テンシは、十字架を手にし、ハクシャクに暗示をかけていきます」
テンシ「ほ~ら、キライになってきたぁ~…」
ハク「あー……」
テンシ「よし、落とすぞ~」
N「テンシは階段の上から、横になるハクシャクに向かってボーリングのボールを落とそうとしています」
ハクM「これ、何の特訓…?」
テンシ「えいっ」
N「ハクシャクは順調に、ニンニクと太陽と十字架をキライになってゆきました。 ところがある日…屋敷中のトマトジュースが消えました。テンシが隠してしまったのです」
ハク「困ったな…」
N「ハクシャクはオナカが空いたけれど、他の食べ物は何もノドを通りません」
ハク「…オナカが空いたよ…」
テンシ「…それで?」
N「テンシの十字架のタトゥーが目に入り、ハクシャクは目をそらしました」
ハク「…外に食べ物を探しに行くよ」
テンシ「ダメよ」
ハク「…どうしてこんなイジワルをするの?これも特訓?」
テンシ「(にやりと笑って)そんなわけないでしょ」
ハク「!?」
テンシ「はじめから気にいらなかったの。アタシに説教なんかして」
N「テンシはハクシャクとの距離を詰めていきます」
テンシ「だからね、ミのホド知らずのバカをからかってやろうと思っただけ」
N「十字架のタトゥーが目に入り、ハクシャクの鼓動が速まりました」
テンシ「でもアナタが悪いのよ」
ハクM「十字架…」
テンシ「アナタがドラキュラっぽくないから」
ハク「(テンシの首筋に噛みつく)」
N「ハクシャクはテンシの血を吸いました。 テンシの体はぐったりとハクシャクに倒れかかり、だんだん青ざめ冷たくなっていきました。」
ハクM「……この味、は」
N「その味は、毎日テンシが出してくれたトマトジュースの味でした」
ハク「あ……」
テンシ「…がんばったね」
N「ハクシャクは歳を重ねて、リッパなドラキュラになっていました。 バカにする人は、もう誰もいません」
ハク「ただいま」
N「黒い棺の蓋が開くと、羽根も真っ黒になったテンシがいました」
N「テンシは二度と目を覚ましませんでした でも、ずっとずっとずーっと… 幸せそうな顔をしていましたとさ」
テンシ「今じゃない時、此処じゃない場所 雪は白くて、星はキラキラして、空気はおいしかった そんな世界のフシギなオハナシ」