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小説家らしき存在(ラーメンズ台本)

●登場人物 小説家(不問):天才だと言われている小説家、常居 次人(つねい つぐと)

編集者(不問):常居の屋敷に仕事の依頼にやってきた編集者

●注意事項

「ラーメンズ」の同名のコントを書き起こし、声劇用に多少の改変を加えたモノです。

この台本に関しては性別転換等々、好きなようにお使いください。

だいたい上映時間は10分前後になると思われます

EndFragment

●本編

小説家「伝説の小説家がいた。もう百本近くの小説を書き、世に出版されている。     しかもそれらの作品は、すべて似ていない。     書く作品によって、その人格が豹変したかのように、     まったく違う作品を生み出し続けているのだ。     それがゆえに、天才だと言われ続けている。     今日もまた、ある雑誌社の人間が仕事の依頼に来た」

編集者「……すみません。寝ちゃった」 小説家「いいんですよ。そのままお休みになっていていただいて」 編集者「いやいや、そういうわけにはいきませんよ。     本物の大天才を目の前にして、緊張も度を越して眠くなってしまったようです」 小説家「はっはっは、面白い人だ」 編集者「すいません、すいません。

   …(体を伸ばして)…あの、先生、何か眠気覚ましの方法知りません?」 小説家「…そうですねえ…私はやったことないんだけども…“ニッパー”って、分かりますか?」 編集者「あの、ペンチみたいな、ハリガネなんかを切る」 小説家「ええ。あれで、アキレス腱を切るといいと、聞いたことがありますよ」 編集者「…それ、いいかもしれませんけど。でもほら、それは眠気が覚めるんじゃなくて     それどころじゃなくなるってことですよね」 小説家「ああー、すみません。何かお役に立てなかったみたいで」 編集者「あー、いやいや、全然全然。こんな時に眠くなる僕がいけないんですから     ふあぁぁ(あくび)……ふう」 小説家「お忙しいから、寝てらっしゃらないんでしょ。     よかったら、応接室のソファで、横になられるといい。後で毛布を持っていきましょう」 編集者「いや、大丈夫です。大丈夫ですよー!     (立って腕を伸ばして)んっ・・・んっ」 小説家「ん、あぁ」 編集者「え?」 小説家「こういうのもありますよ」 編集者「ほうほうほう」 小説家「折り紙を一枚用意しまして」 編集者「この原稿用紙一枚いただいても?」 小説家「特別ですよ」 編集者「ありがとうございます。うわ!先生の名前が入ってる、かっこいー」 小説家「まず、紙飛行機を一機折ってください」 編集者「どんなものでも?」 小説家「かまいません。まあ、オーソドックスなものでいいでしょう」 編集者「……うし、できました」 小説家「これは、すごい偶然ですが、あなたが今折ったその紙飛行機は、     これまでに全世界で折られてきた紙飛行機の、ちょうど一億機目の紙飛行機なのです」 編集者「そんなのわかんないじゃないですか」 小説家「とりあえずそこは思い込んでください。話はここからだ」 編集者「ああ……一億機目!…それで?」 小説家「この先、どこかで、誰かがちょうど二億機目の飛行機を折ることになるのは、     およそ二十年後になります。その時あなたはおいくつですか?」 編集者「ええと…もう五十近いですね」 小説家「あなたは狙いを定めて折りますが、     惜しくも二億一機目を折ることになってしまったとしたら、どう思いますか」 編集者「そりゃあ……惜しかった!って感じじゃないかなあ?     せっかくならねえ、キリのいい数の方が」 小説家「もうちょっとよく考えてみてください」 編集者「…たった一機、先に誰かが折らなければ」 小説家「そう!それがあなたなのです」 編集者「え?」 小説家「たった今、あなたがこの一機を折っていなければ、     将来あなたが二億一機目を折る際、一機引いて、     ちょうど二億機目を折ることができたはずなのです!」 編集者「……まあ…言ってみりゃそうだけど……あまりにも机上の空論で、     話が具体的なわりにつかみどころがないというか…」 小説家「もやもやします?」 編集者「しますねえ」 小説家「眠いですか」 編集者「眠いですねえ。むしろさっきより」 小説家「ああー、すいません、何かお役に立てなかったみたいで」 編集者「いえ……で?どうですか?筆は進みましたか?」 小説家「(原稿を読む)昔々、あるところに大きな桜の木がありました。     ちっとも花を咲かさないその木に、正直爺さんが灰をまいたら、     灰に含まれる活性炭成分の働きによって土中の酸素含有量が上がり、     根の浸透圧および毛細管現象によって、     吸収された養分、窒素・リン酸・カリウムが効率よく行き渡り、     桜の開花に充分な日光もあいまって、満開になりましたとさ。     正直爺さんは言いました。     『ああ、この場合、私が正直だろうと嘘つきだろうと、あんまり関係なかったなあ』     めでたしめでたし」 編集者「またご冗談を。ふああぁぁぁ(あくび)……失礼」 小説家「よかったらお茶、もう一杯入れてきましょうか」 編集者「けっこうです。ちょっと外の風にあたってきますから」 小説家「それは、困りますね」 編集者「え?」 小説家「外出はちょっと」 編集者「そうなんですか?でも、どうしても眠くって」 小説家「分かりました。では、眠気が覚めるお話をお聞かせしましょう」 編集者「飛行機シリーズはやめてくださいね」 小説家「いえいえ、もうちょっと面白い話ですよ。     あるところに常居次人(つねいつぐと)という小説家がおりました」 編集者「御自分のお話ですか」 小説家「その小説家は、すでに作品をたくさん発表していましたが、     それぞれの作品がまるで別人が書いたかのようで

    “文体を自在に操る多重人格作家”などという、珍しい評価を受けていました」 編集者「それが先生の作品の面白いところじゃないですか」 小説家「しかし、そんな小説家の作品は知っていても、

    小説家自身の顔を知っているものはいませんでした」 編集者「こうしてお会いできて光栄でした。お若くてビックリしましたけど」 小説家「ある日、そんな小説家の屋敷に、出版社から一人の男が訪ねてきました」 編集者「お、僕のことですね」 小説家「どうでしょう。男は出されたお茶を飲み、原稿の完成を待ちました」 編集者「いつもそうなんですね」 小説家「小説家が、原稿を書いている間に、男は眠くなってきてしまいました」 編集者「お恥ずかしい」 小説家「しかし、小説家はそうなることを知っていました」 編集者「え?」 小説家「睡眠薬を飲ませたのです」 編集者「お。お。面白くなってきましたね。ミステリーですか?」 小説家「なぜそんなことをしたのか。     それには“小説家・常居次人という人間が果たして本当に実在するのか”     というところからお話しなければなりません」 編集者「いいですねいいですね、さっきの“はなさか爺さん”より。     私はそういうのは好きです」 小説家「常居次人とは、実は架空の小説家で、ある出版社の社員だったのです」 編集者「ペンネームだったってことですか?」 小説家「それぞれの作品で人格が違うのは、     それぞれの作品を本当に別々の人間が書いていたからだったのです」 編集者「どういうことですか?」 小説家「常居次人。どんな字で書きましたっけ?」 編集者「常に居る…次の人…」 小説家「(豹変して)あんたのことだよ」 編集者「は?」 小説家「私が常居次人を演じる役目は、もう終わりました。     自分が持ち込んだ原稿の依頼を、自分で書きあげましたから。     お見せできないのが残念です。なにしろ、あなたは他社の人間ですから」 編集者「あなたは、何を言ってるんですか?」 小説家「誰でも一生に一本は、面白い物語作ることができるんだ。     さあ、あなたが百一人目の常居次人です。     自分で持ち込んだ依頼を、常居次人として書き上げるまで、

    あなたは帰ることができない」 編集者「そんなバカなことがあるもんですか!」 小説家「私もはじめはそう思いましたよ!!     でもこれは事実なんだ。今の出版界に足りないモノはなんだ!?     あんたも業界の人間だったら分かるでしょう」 編集者「…常居次人のような…天才だ」 小説家「そう。そんな我々の身勝手な思いが、常居次人というシステムを作り上げてしまったんだよ。     じゃ。私はイチ編集者に戻ります。     文豪、常居次人の名をけがさないよう、いい作品を書き上げてください」 編集者「ちょっと待て!それじゃ、私は今から…ふあああ(あくびの後眠ってしまう)」 小説家「……がんばってくださいね…センセイ」

   <元の小説家に戻って> 小説家「ね、眠くなくなったでしょ?」 編集者「はい、かなり目が覚めました」 小説家「ダメですよ、編集者が作家の横で寝てちゃあ」 編集者「すいませーん。でももう大丈夫です。今の話が面白かったんで」 小説家「いやー、しかし君も役者だねえ」 編集者「嫌いじゃないんですこういうの。でも先生こそ、かなりのもんでしたよ」 小説家「いやあ、私は来るやつ来るやつにやってますから、もう慣れてんだ。     でももし、今の話が本当だったとしたら、どう思います?」 編集者「そうですねえー。案外受け入れちゃうんじゃないかなー」 小説家「私を、いや、常居次人という架空の小説家を演じて、一本小説を書く?」 編集者「ええ、やっぱり、小説家に憧れてこの世界に入ったクチですから。     ……あ、すいません。本物の作家先生の前でこんなこと。     私には先生のような面白い小説なんて書けるわけないですもんね」 小説家「そんなことないんですよ。さっきのお話にもあったように、     誰だって一生に一本は、本当に面白い小説を書くことが出来るもんです。     ただ、何本も書かなきゃいけないのがプロなんだろうがねえ」 編集者「そんなもんですかねえ」 小説家「そんなもんですよ。そうだ、実際書いてみたらどうですか」 編集者「え!?やめてくださいよ」 小説家「小説家を目指してたんでしょ。いい機会じゃないですか。     私もまだまだかかりそうだ、やることがないと、また眠くなってしまいますよ」 編集者「……そうですかぁ?」 小説家「書きあがったら、私が見てさしあげましょう」 編集者「それは凄い!常居先生に見てもらえるなんて!よーし!頑張っちゃおうかなぁ!」 小説家「ごゆっくりどうぞ」    <ゆっくりと小説家は出ていく> 編集者「……でもあれですよね、この原稿用紙、先生の名前が書いてあるから、     もし誰かが読んだら、まるで先生の作品みたいに見えるでしょうね、先生」    <小説家がいないことに気付く> 編集者「あれ、先生ー?どこに行かれたんですかー?     あれ、ドア開かない…先生?やめてくださいよー。     はっはっはっは……え?」

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