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採集(ラーメンズ台本)

●登場人物 小林♂:あだ名は「プリマー」。生まれ育った故郷を離れ東京で生活している。 片桐♂:あだ名は「ジャック」。母校で理科教師をやっている。

●注意事項

「ラーメンズ」の同名のコントを書き起こし、声劇用に多少の改変を加えたモノです。

この台本に関しては性別転換等々、好きなようにお使いください。

だいたい上映時間は20分前後になると思われます。

Nと書いてある部分はナレーションとして読んでください。

Mはモノローグです。

●本編

小林M「上京してからはめったに帰ってこなかった故郷。数年ぶりに訪れた母校。     俺は、その日そこで理科教師をやっている同窓生に、     『クラスのマドンナがお前に会いたがってるんだ』     と言われ、わざわざ東京からやってきたのだった」

片桐「っしゃあ!」 小林「くっそー!お前昔よりスマッシュ早くなってないか?」 片桐「俺、実は時々ここでやってるんだ」

小林M「呼び出されたのは、真夜中の体育館。     彼女との待ち合わせ時間まで、     あの頃打ちこんでいた卓球をしながら、思い出話にふけっていた」

片桐「っさぁ!」 小林「だああ、やっぱお前のカットは切れるなー。通称切り裂きジャックは健在だな」 片桐「……」 小林「あーあ、限界。休憩しよう。    こら筋肉痛くるぞー、しかもあさってな。    昔は翌日きてたのに、何なんだろうな」 片桐「あー。筋肉の繊維ってね、骨折と一緒で再生するときに太くなるんだ。    それが神経を圧迫して筋肉痛になるんだけど。    年齢を重ねるにつれて代謝が遅くなって、    それが四十八時間以上かかっちゃうんだよね」 小林「おおー。さすが理科の教師」 片桐「生物だよ」 小林「中学校なんだから一緒だろ?」 片桐「専門分野ってこと」 小林「一緒だよ」

片桐「なあ……プリマ―」 小林「ん?」 片桐「東京、楽しいか?」 小林「うん。楽しくやってるよ!」 片桐「おい!」 小林「え?」 片桐「そういうのやめろよ」 小林「いや、本当に。本当に楽しくやってるんだ。    ありがとうな。東京に出た俺を心配してくれて」 片桐「違う。そういうことじゃなくて」 小林「え?」 片桐「だから、もっとこう。お前は、東京の暮らしに疲れてて、    久しぶりに地元の友人に会って、昔の輝きとかを取り戻せよ」 小林「勝手に決めるなよ」 片桐「やなの!何か!負けたくないの!    だって東京なんて楽しいに決まってんじゃん。店とか夜まであいてるしよー。    こっちのセブンイレブンなんて本当にセブンオープン・イレブンクローズなんだぜ。    だから、田舎のこっちとしてはさぁ、    都会人が忘れがちな人の温かさみたいなので太刀打ちしたいじゃん」 小林「お前は正直なやつだなあ」 片桐「それそれそれ。正直さ?素直さ?ね。田舎の人の?擦れてなさ?    いいからむこう向け。    ……プリマ―。東京、楽しいか?」 小林「うん。だから、楽しくやってるってば」 片桐「だからよお。分かってんの!そんなことは!    そりゃ楽しいさ。何でもあるしな!選べるしな!いろいろ!    こっちだと“変わり者”扱い受けるようなことでも、    東京だとなぜか“個性”とか言ってもらえるじゃん。    だから、田舎のこっちとしてはさあ、    “心の忘れ物は、ここにあります”みたいなので太刀打ちしたいじゃん」 小林「お前、擦れきってるな」 片桐「……プリマ―。東京、楽しいか?」 小林「(乗っかって)……うん。まあ……それなりに」 片桐「人が多いんだろ?ここなんかよりずっと」 小林「凄いよ。電車とかもうこの近さだもん」 片桐「近いな」 小林「うん。でも心の距離はみんな遠い。    こんなことって、こっちにいたときは、    ちっとも感じたことなかったのにな……。    (元に戻って)こーいうのだろ?」 片桐「そうそうそうそう。そういうふうに言ってもらわねえとさあ、    “あ、負けてねえな”って感じしねえじゃん」 小林「勝ち負けの問題かなあ」 片桐「勝ち負けの問題なの。差別されてたまるか!」 小林「……ここで汗かいてたころは、みんな同じだったのにな……    どこに分かれ道があったんだろう」 片桐「きっと、はじめから分かれてたんだよ。生き方なんて、決まっててたまるか」 小林「変わってねえな」 片桐「成長してねえだけだよ」 小林「ふっふっふ……なあ、今のやり取りカッコよかったよね」 片桐「カッコよかったねー。青春時代を語り合うかつての親友。    地元に残った青年と、失いかけた純粋さを取り戻そうとする東京のサラリーマン」 小林「だから!勝手に決めるなって!それと俺サラリーマンじゃねえからな」 片桐「あれ?何やってんだっけ?」 小林「花屋」 片桐「……お前それはキタネエよ」 小林「何がよ」 片桐「だってそんな素敵っぽい職業されちゃったらさあ、    こっちの“田舎の温もり感”薄れんじゃん!」 小林「知らねえよ、そんなことは」 片桐「ダメ。お前はしがない営業マン、そうでもしなきゃこの状況が絵になんないだろ」 小林「誰が見てるわけでもないのに。    …なあ、前ここに忍びこんだのっていつだっけ」 片桐「三年の文化祭の後だ!」 小林「そうだ!終わっちゃうのがイヤで」 片桐「酒買ってきて!」 小林「無茶してたよなあ。ウォッカ跳び箱にしみ込ませて火つけて跳んだもんなー!    ……青かったなあ…俺達も…炎も…」 片桐「…それも…俺は跳べなかったんだ。    なかったんだよ、無茶する勇気も、東京に出る勇気も」 小林「……お前が跳べなかったのは火とか関係ないだろ?」 片桐「うん。跳び箱が普通に跳べなかった」 小林「過去をねつ造するんじゃないよ。いいんだよ、無理にドラマチックにしなくても。    そんなことしなくたって、人生ってじゅうぶん面白いもんなんだと思うよ」 片桐「……だからそういう感じのことは、地元に残った擦れてない中学教師が言うことだろ」 小林「それが擦れきってるって言ってんだよ!    ……で?」 片桐「え?」 小林「え?じゃねえよ、おい」 片桐「ああ」 小林「頼むぜ。俺は何しに来たんだよ」 片桐「分かってるよ。もうすぐ迎えに行く」 小林「なあなあ、俺のこと、すぐわかるかなあ」 片桐「そりゃあわかるだろー。彼女お前のこと好きだったんだから」 小林「なあ、それって本当に本当なの?」 片桐「本当も本当だよ。昨日だって電話で言ってたし、    それこそ中学んときだって丸出しだったじゃん」 小林「そうだっけなあ」 片桐「鈍感にもほどがあるぞ」 小林「彼女のほうはどこか変わった?」 片桐「凄い美人になったぞ。中学時代から綺麗だったけど、比べ物にならないほど。    離婚して、ますますって感じ。ありゃ天から舞い降りた美の女神だな」 小林「(壊れたように)ふふふふふ」 片桐「大丈夫か?」 小林「大丈夫じゃねえよ。だって、数年ぶりにクラスのマドンナに会うんだぜ」 片桐「へへへへー」 小林「でも勘違いするなよ。その後どうこうなりたいってんじゃないんだからな」 片桐「ホントかー?だって彼女は独り身になったんだし?    それにお前だって今日、自分の彼女に何て言って出てきたんだっけ?」 小林「徹夜で棚卸し」 片桐「きっちり嘘ついてるじゃねえかよー!」 小林「お前がそう言えって言ったんだろー!    ……でも、本当にどうこうなりたいってんじゃないんだ。    こう何というか……つっかえてたんだ、このへんに」 片桐「好きだったんだな。お前も」 小林「これは、俺なりのけじめだ。    あのさあ、前からどうしても聞きたかったことがあるんだけど」 片桐「ん?」 小林「お前ってさあ、彼女のことどう思ってたの?」 片桐「そうねえ、まあ『綺麗な人だなあ』くらいに思ってたけど、    俺の興味は理科と卓球にしかなかったから」 小林「そっか。そうだよな。    ああ、今でも覚えてるよ。お前の作った昆虫の標本千匹。五百種類つがい。    あれ、すごかったもんなー。    俺もやってみようと思ったんだけどさあ、    アブラゼミのオスしか見つかんなかったもんなー。    メス鳴かねえからどこにいるか分かんねえんだもん。    なあなあ、あれ今はもうやってないのか?    理科の教師なんだから環境は整ってんだろ?」 片桐「いやあ、今は」 小林「なんだよ、ちょっと期待してたのになあ。    てっきりレベルアップして動物の剥製くらい作ってると思ってた」 片桐「まあいいじゃん。俺の話はさ。ほら飲もうや」 小林「なんだこりゃ」 片桐「ビールだよ」 小林「いいのかよこんな場所で飲んで。仮にも聖職者だろ?」 片桐「夜中の体育館は俺の箱庭だ。それにお前だってあんときここで飲んだじゃねえかよ」 小林「まあそうだけどさ。でお前、三角フラスコはやめろよ」 片桐「おつなもんだぞ。スポイトは使うか?」 小林「使わない」 片桐「何だよー。血中アルコール度数が正確に分かっていいだろうよ」 小林「おいお前、これちゃんと洗ったのかよ。なんか、実験みたいな味がするぞ」 片桐「(スポイトで飲んで)15㏄摂取したっと」 小林「こっちのこれは?」 片桐「焼き豚。はい、包丁。食いたいだけ切れ」 小林「ありがと」 片桐「包丁切れるか?」 小林「うん、凄く切れ味良いよ」 片桐「さっき研いだばっかりだからな」 小林「おい!これほとんど生焼けじゃねえか?これじゃ豚のタタキだぞ」 片桐「しょうがねえだろ、手作りなんだから」 小林「お前の!?」 片桐「その辺にいるやつ一頭拝借してさあ」 小林「え、自分でさばいたのかよ!?」 片桐「別に簡単だったよ。    そっかー、生かー。やっぱアルコールランプじゃ限界があったな」 小林「豚一頭分っていったら、相当の量だろ?他の部分はどうしたんだよ」 片桐「うん。痛んでほとんど捨てちゃった」 小林「もったいねえなあ」 片桐「俺、別に中身には興味ねえから」 小林「え?」 片桐「さて、そろそろだな。彼女スナック働いてて、もう閉店だから」 小林「お、おう!おう!」 片桐「ついでにウォッカ買ってくるわ」 小林「おい今さらリベンジかよ」 片桐「飲むんだよ」 小林「あれ?でもイレブンクローズなんだろ?」 片桐「もう一軒あるんだよ」 小林「すげえな、けっこう進歩してんじゃん」 片桐「一回フェリー乗るけどな」 小林「向こう岸かー。なんていうコンビニ?」 片桐「言っても知らないと思う」 小林「そんなのわかんないだろ」 片桐「グリーンマート高橋」 小林「知らねえや」 片桐「このコート借りていい?」 小林「ああ、別にいいよ」 片桐「すぐ戻るよ。運命の再会のシミュレーションでもして待ってろ。    眠くなったら体操のマットあるから」 小林「こんな時に寝れねえよ」 片桐「違うよ。眠気覚ましに三点倒立でもしてろ」 小林「しないよ」 片桐「ちょーどそのタイミングで彼女連れてきてやるから」 小林「しないって」 片桐「(マドンナになりきって)『小林君、何してるの!?』」 小林「しねえよ!」 片桐「あ、破けて綿出てるマットだけは触るなよ。俺のお気に入りだから」

小林「……綿?    ……うわ!これかよ気持ち悪い!捨てろよこんなもん。    お気に入りの意味が分かんねえよ」

N(片桐)「小林はじっとしていられず、再会のシミュレーションをし始める」 小林「『どうも、お久しぶりです。』    なんか違うなぁ…」

小林「『ういーっす。俺、誰だかわかる?』    軽いかな…」

小林「『……おう』    暗っ!」

小林「『……き、君は……良かった……会えて…     なんて綺麗なんだ……ずっと…好き…でし…た…』    …間違ってる。今の俺は全体的に間違ってる。    落ち着け、普通にやればいいんだ。普通に。    なにを意識する必要があるか。だってタダの同窓生じゃないか。    彼女にだってすでに、お付き合いしてる人がいるかもしれないわけだし。    いや、いて当然だよ。うん……あいつの情報だと相当の美人だ…(蹴躓いて転ぶ)」 N(片桐)「ブツブツ言いながら歩き回っていた小林は足下の鞄で躓いて転ぶ」 小林「こんなところにカバンを置くなよー    あれ、これアイツのノートかな…?」 N(片桐)「興味本位で、躓いた拍子にカバンから飛び出したノートに手が伸びる」 小林「いや……ダメダメ」 N(片桐)「一度はカバンに戻すも耐えきれずノートを開いてしまう。      そのノートに書かれていた内容は」 小林「“カエル・ハツカネズミ・モルモット”……?    ああ、はいはいはい。“解剖”日記か。    “ニワトリ・ウサギ・ブタ・ニンゲン”……?    あれ、解剖じゃねえな……気持ちワリイ」

小林「にしても夜の体育館って……黙ると静かだなー!周りに何もないからなー!    こわ…くなんかないぞー!」   <怖さを紛らわせるように大声になっていく小林>

N(片桐)「やがて、沈黙に耐えかね、体育館の扉を開ける。      外からは夜の冷たい風が入り込んでくる」 小林「おーい。ジャックー。早く帰ってこいよー。    クッソ!寒いなあ。なんであいつ上着持ってきてねえんだよ。    このへんは夜冷え込むってことくらい、地元なんだから分かるだろ」 N(片桐)「小林は体育館近くの飼育小屋を見つけて近寄る。      中にはニワトリとウサギの姿が見える」 小林「なあ、ウサギ。チッチッチ……    なあ、ニワトリ。コケッコケッコケッ……ん?    あれ、鍵空いてるじゃん、不用心だな。逃げちまうぞ」 N(片桐)「飼育小屋の中に入って動物に触ってみたが反応がない」 小林「はく製…?何だよ、やってんじゃん、あいつ。何で隠してんだよ…!    ……ニワトリと…ウサギと……」

小林M「俺の頭には先ほどの片桐との会話が思い出されていた」 片桐「『焼き豚』『その辺にいるやつ一頭拝借してさあ』    『俺、別に中身には興味ねえから』」 小林「はっは。バカバカしい。そんなことがあるわけないじゃないか。    だって人間の剥製なんて、誰の身体で作るって………    ……………俺か?」

小林「俺か!?……俺かよ!……いやいやいや!落ち着け!    そんなわけない!ありえない!    だいたい、そもそもこんなとこで、はく製を作るなんて無理だ。    そもそも刃物がいるじゃねえか」 片桐「『はい、包丁。食いたいだけ切れ』    『さっき研いだばっかりだからな』」 小林「いや、中に詰める綿がいるじゃないか…!」 片桐「『あ、破けて綿出てるマットだけは触るなよ。俺のお気に入りだから』」 小林「消毒のアルコールが……」 片桐「『ほら飲もうや』『ビールだよ』」 小林「……いや、ビールじゃ消毒なんて。普通、そういうときに使うのはもっと度数の高い」 片桐「『ついでにウォッカ買ってくるわ』」 小林「いやいやいや。もしそうだとしたら、理科室とかに呼び出すはずじゃないか…!    そらそうだ。こんな机もない体育館じゃ、手術台の代わりになるものだって……    卓球台…があるか」 片桐「『夜中の体育館は俺の箱庭だ』」 小林「やだよ……俺やだからね……」

小林「ははは、やっぱり考えすぎだ。だってあいつはこうして俺を一人にしたじゃないか。    こんなことしてたら俺に逃げられちゃうじゃないか。    こんな誰も見てない状態を俺に与えたことが、違うっていう証拠だ。    俺は誰に話してるんだ。ふふっ、こんな誰も見てない…」

小林「……どっから見てんだよお!!…あ!?やってみろよ!!    かかってこいよ!切り裂きジャックさんよお!    もし俺のはく製作ってもなあ、どんなに隠したって、すぐに……    そりゃあ東京いることになってるけどさあ!    ……なんだよ!完璧じゃねえかよ!」 N(片桐)「小林を不意に眠気が襲う。眠気を晴らすように三点倒立を始める」 小林「さっきのビールだな……眠くねえぞー!    お前の睡眠薬なんて全然効いてないからなあ!」 N(片桐)「ケータイの着信音が鳴り響く。片桐からの着信だった      おそるおそる耳にあて応える」 小林「はい……はい?え、彼女と連絡が付いた?    ……一人でタクシーでこっち向かってるの?    ううん、まだ来てないけど……うん……そうなんだ、待ってるね。    ……え?……なんでお前が時間つぶす必要があるんだよ。    二人っきりの時間?    …おいいー、やめろよー。そういうの、恥ずかしいよー。    二時間半くらいでいいよー。ふふふふふ……何にもしねーよ!    え?上着?あげるよ、そんなもん。    全然寒くねえよー。お前の心の温もりで十分だよー。    はーい。じゃあねー」

小林「…はっはっは!はっはっはっはっは!    何だ。なーんだあ!こわかったー!    なんだよ、バカバカしい!そりゃそうだよ。    俺ミステリー作家の才能あるんじゃないのか?    馬鹿げてるよ人間のはく製なんて。    はーはっはっはっは」 片桐「ごめんな」 小林「……え?……あ(倒れる)」

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