50 on 5(ラーメンズ台本)
●登場人物 バイト:アイデアマン 社員:バイトの手柄を横取りしようとする人 部長:中間管理職の悲哀 社長:ちょっと他より出番少ないよ 社鬼:企業を守る鬼(台詞少ないのでバイトと兼役必須)
========== 【配役】(4人でやる場合) バイト/社鬼♂: 社員♂: 部長♂: 社長♂: ==========
========== 【配役】(2人でやる場合) バイト/部長/社鬼♂: 社員/社長♂: ==========
●注意事項 「ラーメンズ」の同名のコントを書き起こし、声劇用に多少の改変を加えたモノです。 この台本に関しては性別転換等々、好きなようにお使いください。
元々二人でやってるものなので二人でも出来ますし、
分けて四人でも出来ますが兼ね役の変更はおススメしません。
だいたい上映時間は15分前後になると思われます。
●本編 社員「あいうえお」 部長「かきくけこ」 社員「さしすせそ」 部長「たちつてと」 社員「なにかこれに問題が?」 部長「あるんだよ。見ろ。『あ』、『あり』。な?」 社員「『あ』、『あり』。はい」 部長「『い』、『いぬ』。な?」 社員「『い』、『いぬ』。はい」 部長「『う』、『うみ』。な?」 社員「『う』、『うみ』。読めますよ」 部長「そういうことじゃなくてな。このポスターの、単語を差し替えてほしいんんだ。 例えばこれ、『た』、『たんぼ』」 社員「はい」 部長「『そ』、『そろばん』」 社員「はい。いいじゃないですか」 部長「いやいや、たんぼもそろばんも、最近はピンと来ない子が多いんだそうだ。 時代だよ、時代」 社員「じゃあ『た』は……」 部長「タンマツ」 社員「おおー、さすが部長」 部長「ふふん。これは社長のご命令だ。しっかり頼むぞ」 社員「分かりました。早速取りかかります」
社員「というわけで、その教材用五十音ポスターの、各単語を差し替えてほしいんだ」 バイト「なるほど、別にこのままでいい気もしますけどね」 社員「いやいや、『た』の『たんぼ』とか、『そ』の『そろばん』とかさ、 最近の子供にはピンと来ないんだそうだ」 バイト「じゃあ『た』は?」 社員「(得意げに)ふふん、『たんまつ』」 バイト「それはどうっすかね?」 社員「お、俺もどうかと思ったんだけどさ、部長がそうしろって」 バイト「じゃ『そ』は?ソリューション?とかっすか?」 社員「あー、どうしてもそうなっちゃうよなぁ……」 バイト「……」 社員「分かってるからね?」 バイト「……」 社員「『そふゅーほん』だろ?」 バイト「ソリューションですよ」 社員「何だよ。お前は分かってんのかよ」 バイト「あたりまえでしょ。ってことは?この五十音すべての単語を差し替え―――」 社員「(遮って)待て待て待て。ソリューションてなんですか?」 バイト「いいじゃないっすか。つまりこの五十音すべての―――」 社員「(遮って)よくねーよ。答えなさい」 バイト「やです。つまりこの五十音―――」 社員「(遮って)やですじゃねえんだよ。言え」 バイト「うるせえ。この手のポスターは―――」 社員「(遮って)ちょっと待ておい。 バイトの分際でうるせえとはどういうことだ。仮にも正社員だぞ」 バイト「ソリューションってのはあれですよ、粗末なイリュージョンですよ」 社員「……お?それは、そんなわけねえだろ、的、なことでいいのかな?」 バイト「ちっ……ひらがなってこんなにあるのかぁ。 あ、じゃあこういうのどうですか?」 社員「ん?」 バイト「五十音全部に、同じ字を付ける」 社員「同じ字?そんなんじゃ成立しないだろ」 バイト「ふふーん。『か』ですよ」 社員「か?」 バイト「『あ』からいきますよ。『あか』」 社員「うん」 バイト「『いか』」 社員「うん」 バイト「『うか』」 社員「うん!」 バイト『えか』」 社員「うん?」 バイト「『おか』」 社員「うん……『えか』って?」 バイト「そら一個や二個の不具合はありますよ」 社員「一個や二個でもあっちゃ困るんだよ」 バイト「ん?一個や二個、三個、四個。あ!これだ!」 社員「え?」 バイト「『んこ』だ!」 社員「んこ?」 バイト「そうです、『さんこ』『よんこ』『なんこ』。ね? 『てんこ』『わんこ』『きんこ』『はんこ』。ほら!」 社員「でも五十音全部は無理だろ」 バイト「いけますよ。『あんこ』『いんこ』」 社員「うん、待った待った」 バイト「なんすか」 社員「なんすかじゃねえよ」 バイト「分かった!『き』だ!」 社員「何だ、次から次へと。ん?『き』?」 バイト「そう!『き』!しかもこれひとつの情景を表してますからね」 社員「どういうことだ?」 バイト「マ行でつくると、木の皮を剥いてマキを作ってるところになります」 社員「マキって、薪?」 バイト「『薪』『幹』『剥き』『めきぃ!』『もきぃ!』」 社員「後半擬音じゃないか」 バイト「いいじゃないっすか擬音!もう全部擬音で行きましょうよ」 社員「どういうことだよ」 バイト「アゴッ!イブッ!ウベッ!エグッ!オボッ!」 社員「……なるほど」 バイト「カデッ!キベッ!クバッ!ケゾッ!コドッ!」 社員「いけるもんだな」 バイト「でしょー」 社員「サゴッ!シビッ!スベッ!セバッ!ソボッ! いや、祖母なぐっちゃだめだ。ソバッ!あ、ソバ打ってるみたいだ」
社員「どうでしょうか」 部長「ダメに決まってんだろ」 社員「すいません。バイトと盛り上がってしまいまして」 部長「ただ、全部同じのつけるっていうそれ」 社員「ああ、『あか』『いか』『うか』ですか」 部長「うん。それは、なかなか面白いアイデアだとは思うがな。 バイトが考えたのか」 社員「私です」 部長「バイトだろ」 社員「はい、すいません」 部長「あいつやるじゃないか。 よし、あかさたな各行それぞれ同じ字をあてがってくれ」 社員「はい」 部長「頼んだぞ。新学期の教材シーズンまで間がないんだから」 社員「はい。全力を尽くします。……できるかなぁ」
バイト「『あす』『いす』『うす』『えす』『おす』 『たき』『ちき』『つき』『てき』『とき』 『なる』『にる』『ぬる』『ねる』『のる』」 社員「できるもんだな」 バイト「でしょ?」 社員「ただ、『エス』はどうかなあ。一応、国語の教材だし」 バイト「『えす』はアルファベットじゃないですよ。日本語ですよ」 社員「日本語に『エス』なんてあるか」 バイト「『おい若者よ』『なんすか』『美術室で何を描いているのじゃ』」 社員「『絵す』。なるほど」 バイト「ふふふーん」 社員「その『ちき』ってのは、『知る』に『おのれ』の『知己』のこと」 バイト「違いますよ、基地ですよ。基地。秘密基地の基地。の業界用語。チーキー」 社員「お前幅広いなあ」
社員「というわけで、『チキ』は『チーキー』のことです」 部長「なるほど。考えたな」 社員「はい。これでどうでしょうか」 部長「無理がある」 社員「すいません」 部長「しかも何だこの『エス』ってのは。国語の教材なんだぞ?」 社員「あ、それ聞いちゃいます? 『えす』ってのはね、アルファベットじゃないですよ。日本語ですよ。 『おい若者よ、美術室で何を描いているのじゃ』」 部長「『絵す』……ダメに決まってんだろ!やりなおし!」 社員「すいません」
バイト「どうでした?」 社員「怒られた。やっぱ全部同じ字パターンで行くのは、なしだって」 バイト「くっそー。せっかく考えたのに」 社員「それに、『を』、『手を洗う』が変わってないじゃないか」 バイト「だってこれは同じ字パターンで揃えられないでしょ、ポジション的に」 社員「いや、同じ字パターンはボツったからもういいんだ。 どうせ変えるなら全部変えたいんだって」 バイト「なるほどね。 でもまあ確かに、『を』に関しては俺も納得いってなかったんすよ」 社員「というと?」 バイト「見てくださいよ。『あ』、『あり』、『い』、『いぬ』。 みんな出来るだけ短くしてるのに、『手を洗う』だけトータル五文字もある」 社員「これより短い例文なんかつくれるか?」 バイト「四文字でいけますよ」 社員「ええ?」 バイト「『酢を飲む』」 社員「まあ確かに短くはなってるけど」 バイト「まだ、ありますよ。 『矢を射る』『歯を折る』『目を突く』『血を吸う』」 社員「なんで全体的に痛みを伴うんだよ」 バイト「じゃあ『蛾を持つ』」 社員「『じゃあ』じゃねえよ」 バイト「ちゃんと結果的に『手を洗う』ことにもなりますからね。 あ、こうしましょう。『蛾を持つ、鱗粉を嫌がる、手を洗う』どっすか。 『を』が三回出てきますよ」 社員「トータルの文字数増やしてんじゃん」 バイト「あ、そうか。減らさなきゃ。お!じゃあ、三文字で」 社員「それは無理だろ。『蛾を持つ』の四文字が最短だろ?」 バイト「行けますよ。 (苦しげに手を差し出しながら)『……これを』。ほら」 社員「これって?」 バイト「血の付いたディスクに決まってんじゃないっすか」 社員「挿絵が入るんだぞ」 バイト「どっすか!ドラマチック五十音ポスター」 社員「うーん……」
社員「というわけで、ドラマチック五十音ポスターという案が上がっているんですが。 ダメですよね?」 部長「面白いんじゃないか?」 社員「本当ですか!?」 部長「バイトの案か?」 社員「私です」 部長「バイトか」 社員「はい、すいません」 部長「この調子で、『あ』から順番にやってくれ。頼んだぞ」 社員「お任せください!」
部長「社長、例の教材用五十音ポスターですが、このように進めております」 <社長は全く部長を見ずにパターの練習をしており、気のない返事> 社長「なるほどね」 部長「部下とバイトが、必死に頑張っております」 社長「あそお。部下とバイトが」 部長「はい」 社長「あそお」 部長「…はい」 社長「ふーん」 部長「このまま進めてよろしいですね?」 社長「うーん。別に変えなくてもいいんじゃないの?」 部長「ええー!?」 社長「いいじゃない。ソロバン。なつかしくて」 部長「…はあ」
<ドラマチック五十音> 社員「あ」 バイト「嵐」 社員「い」 バイト「稲妻」 社員「う」 バイト「渦潮」 社員「え」 バイト「遠雷」 社員「お」 バイト「オトコ!」 社員「おー!勢いがあるね」 バイト「ちなみに『オトコ』は漢字の漢と書いてオトコ」 社員「か」 バイト「空手」 社員「き」 バイト「切れ味」 社員「く」 バイト「熊」 社員「け」 バイト「けんか」 社員「こ」 バイト「コォー(精神統一の吐息)」 社員「強い!」 バイト「さ」 社員「三組に転校生」 バイト「し」 社員「知らねえ」 バイト「す」 社員「すげえ可愛い子だって?」 バイト「せ」 社員「せっかくだけど、今俺、サッカーにしか興味ないんで」 バイト「そ」 社員「そうか、転校生か……」 バイト「何この予感!…た」 社員「大変だ!」 バイト「ち」 社員「遅刻しちまう!行ってきまーす!」 バイト「つ」 社員「連れてって、って?君ってもしかして」 バイト「て」 社員「転校生!?」 バイト「と」 社員「隣の家なのかよ」 バイト「芽生える。この二人確実に芽生える!」 社員「な」 バイト「名古屋まで?ダメダメ遠回りになっちまう」 社員「に」 バイト「兄ちゃん旅かい?」 社員「ぬ」 バイト「濡れてるじゃねえか」 社員「ね」 バイト「寝てねえとか言われちゃったらもう……」 社員「の」 バイト「……乗れ!」 社員「いい人だ!」 バイト「は」 社員「ハックション!」 バイト「ひ」 社員「ヒッチハイク最悪」 バイト「ふ」 社員「布団ないんすか?」 バイト「へ」 社員「へー、このトラック何にもないんすね」 バイト「ほ」 社員「ホテルついたら起こしてください」 バイト「おりろー!」 社員「ま」 バイト「また来年があるさ」 社員「み」 バイト「みんなここまでよくやった」 社員「む」 バイト「無茶言うな」 社員「め」 バイト「メンバー全員同じ意見なのか。よーし」 社員「も」 バイト「もう一度挑戦だ!」 社員「……なにがだよ?」 バイト「ほら、続けて」 社員「や」 バイト「やばいな」 社員「ゆ」 バイト「優勝候補が」 社員「よ」 バイト「予選突破か」 社員「ら」 バイト「来週はいよいよ」 社員「り」 バイト「リーグ戦だ」 社員「……だから、何のだよ」 バイト「いいから、続けて」 社員「る」 バイト「ルールは簡単」 社員「そうそう、それそれ。 れ」 バイト「練習通りに」 社員「ろ」 バイト「老若男女が」 社員「わ」 バイト「輪になって」 社員「を」 バイト「蛾を持つ」
社員「おおー!…あれ、『ん』は?」 バイト「ん?」 社員「ほら、『ん』に例文がついてない」 バイト「『ん』でいいんじゃないですか? 蛾が新種だったんですよ」 社員「(蛾を持って)んん!?」 バイト「そう!」
社員「完成いたしました」 部長「ああ、君ねえ、実はその……とても言い辛いんだけど」 社員「ご覧ください。後半のこの盛り上がりを。これは斬新ですよ」 部長「ああ、うん。そうだな。よくやってくれた」
部長「とりあえず、完成したので、一応目を通していただこうかと」 社長「あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねの はひふへほまみむめもやゆよらりるれろわおん作文を誰が作れと言った」 部長「すいません!おっしゃる通りでございます」 社長「それに言ったでしょ。別に変えなくてもいいって」 部長「しかし、変えろと言い出したのは、そもそも社長が……」 社長「なあに?」 部長「なんでもないです」 社長「どお、週末、ゴルフ」 部長「はい……。では、失礼します」
社鬼「おい」 社長「ん?」 社鬼「おーい」 社長「お前は誰だ!ここは社長室だぞ」 社鬼「ひっひっひっひっひ。私は企業を守る鬼。会社の鬼と書いて社鬼だ!」 社長「シャキだあ!?そんなものいるかー!
(社長、パターの練習に戻ってブツブツと)ん…ちょっと厚く当たりすぎか」 社鬼「おい!」 社長「お前は誰だ!ここは社長室だぞ」 社鬼「ひっひっひっひっひ。私は企業を守る鬼。会社の鬼と書いて社鬼だ!」 社長「シャキだあ!?そんなものいるかー! (社長、パターの練習に戻ってブツブツと)これくらい……いや、強いな」 社鬼「おい!」 社長「(無視してパターを続ける)少しスライス気味か…」 社鬼「ヘーイ!」 社長「お前は誰だ!ここは社長室だぞ」 社鬼「ひっひっひっひっひ。私は企業…社鬼だ! お前がトップだと思ったら大間違い。いつも、ここから見守っていたよ」 社長「知らなかった……」 社鬼「例のポスター、若い人のアイデアを採用なさい」 社長「ええ、バイトのですか?」 社鬼「そうだ」 社長「しかしシャケ」 社鬼「シャキだ!」 社長「あ、シャキ。経験のない若造のアイデアなど、採用しても……」 社鬼「シャキーン!末端を軽んずる会社に繁栄はない! 言うこと聞かないと、潰しちゃうよ?」 社長「それだけはご勘弁を!」 社鬼「ひっひっひっひっひ。じゃ、部下に伝えな。 丸々採用。部長と平社員とバイト君にはボーナスを出しな!」 社長「ならばシャコ」 社鬼「シャキだ!」 社長「私にもお目こぼしを」 社鬼「シャキーン!お前には何にもあげないよ! 屋上のお稲荷さんでも掃除してな!」 社長「ならばコキ」 社鬼「シャキだ!」 社長「あ、シャキ」 社鬼「お前、覚える気ねーだろ!」 社長「ははー!」
社長「バイトのアイデア全部採用!」 部長「ええ!?」 社長「お前にも平社員にもバイトにもボーナス出すよ」 部長「ありがとうございます!」
部長「お前達のアイデア全部採用だ!」 社員「ええ!?」 部長「お前にもバイトにもボーナスが出たぞ!」 社員「ありがとうございます!」
社員「お前のアイデア全部採用だってよ」 バイト「やったー!あ、ボーナスは?」 社員「え?お前にはそんなもん出てないよ」 バイト「隠してもだめっすよ」 社員「……何で知ってんだよ」 バイト「ひっひっひっひっひ」
<了>